

Note1
最近毎夜同じ夢を見る。私は開けた道路に立っていて、周囲を見渡していると、後ろから声をかけられる夢なのだ。
道路は住宅街の中にあるのだが、普通の住宅街とは違って道路の先も後も終わりが見えない。その終わりが見えない道路に沿って、たくさんの一軒家が並んでいる。早朝なのか空気は冷たいし、人が通る様子もない。閑静というには静かすぎるような場所だった。
私はその道路が奇妙で、進むことにも後退ることにも恐怖を感じていた。そこから動くことで何かが起きるような気がしていたのだ。
何もすることがないからか周囲を見渡していたわけだが、そうすると後ろからすいませんと声がかけられる。
振り返ってみてみれば、そこには黒い人影のようなものがいた。
人影は何かもごもごと喋っていて、私もそれに応えてもごもごと喋るのだが、内容はよく覚えていない。いつもここで意識がぼんやりとするのだ。でも最後に人影は決まってこういう言う。私を連れて行ってくれませんか、と。
そこで私は急に意識がはっきりして、いつも混乱する。どこに連れて行けばいいのかわからないので、どこに?と尋ねるが、人影は繰り返し私を連れて行ってくれませんか?としか答えない。
これが怖くて私は、すいません無理ですと答えている。
私がそう答えると人影は姿を消す。瞬きした瞬間に消えている。けれどずっと聞こえてくるのだ。
連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてってとささやく声が。
それが目を覚ますまで続く。目を覚ました後も、その声が耳に残っているような気がして、まだささやきが続いているような気分になる。
一体どこに連れて行けというのだろう。
Note2
夢はまだ続いている。相変わらず人影は出てくるし、連れて行けとささやいている。
しかし最近、変化が生じた。
以前まではどこに?と聞いても答えがなかったのだが、ここ最近ではちゃんと回答するようになったのだ。どうやら住所のようで、そこに連れて行けということらしい。
けれど夢の中だからか、それを聞いても私にはピンとこない。その住所がどこを指し示しているのかも気づけないし、スマートフォンを使って調べるといったことも思いつかない。
だから、わかりません無理ですと答えるのだが、そうするとまた始まるのだ。
連れてってとささやく声が。
しかし以前とは違い、人影は消えない。
そこで私はずっと目が覚めるまで待つのも暇なので、人影を観察してみることにした。
人影は相変わらず黒いままで、覗き込もうと後ろから見ようと何かが見えるわけではなかった。
触るのはさすがに嫌な感じがしたのでやめたが、人相が見えないかと思い顔のあたりを覗き込んでみた。すると一瞬、目があった。
充血した黒い目だった。視線は私の眼球を一直線にとらえていて、あまりのその強さに私の目が貫かれたのではないかと錯覚した。
そして同時に、見られたと思った。
具体的に何が見られたのかはわからない。けれど何か、嫌な予感がした。
もう一度人影を見ようとしたときには、その場から消えた後だった。
ささやき声も消えており、私は目が覚めるまで呆然としていた。
そして目が覚めたとき、時計のアラームとインターフォンがうるさく混じって鳴り響いていた。
時計はまだ6時を指していて、人が訪ねてくるような時間ではなかった。
アラームを止めてから、私はインターフォンのスイッチを押して、相手が話すのを待った。
布団から出たばかりで肌寒く、また朝の空気が冷え切っていたからか夢で感じた冷たさが思い出された。
インターフォンから返事がないので仕方なくこちらから、もしもしと声をかけた。
すると向こうから、連れてってと声が聞こえた。
Note3
気付いてしまった。
私がわからなかったあの住所は、私の家の住所だった。
そしてあの時、人影がもごもごと喋っていた内容は私の住所を聞く内容で、私がもごもご喋っていたのは私の住所だったのだ。
あの人影は、私の家に連れて行ってと頼んでいたのだ。
そのことに気づいてからいつもインターフォンが鳴っているような気がしてならない。
部屋の外にあの人影がいるような気がしてならない。
部屋から出ることが恐ろしく感じられて、いつも友人に迎えに来てもらっている。
けれど友人を出迎えるとき、私は見てしまった。
友人の後ろにあの人影が立っていたのを。
Note4
最近では家から出ることもできなくなった。
家から出られないので当然食料を消費される一方で、そろそろ買出しくらいにはいかないといけないだろう。
もう夢の中でも起きていてもあのささやき声が聞こえるせいで、今私が眠っているのか、起きているのかもわからなくなってきている。唯一区別できていたあの閑静な住宅街沿いの道路も、最近では現れない。あの日人影の目を見てから、夢の中でも私は自室にいて、ベッドで横になっていた。
もう限界だと思う。病院にでも行ってみてもらうべきなのだろう。
外に出て、ご飯を食べて、病院へ行こう。
人影は無視すればいい。何か言われても答えなければいいのだ。あれはきっと私が見ている幻覚で、何か害を加えるようなことはできないはずだ。
外に出るための支度をした。着替えて身なりを整え、必要なものをカバンに詰めて、ドアを開けた。
そこに人影はいなかった。
いたのは私だった。
私が私に連れて行ってと言っている。
どこに?そう聞くと、私の家にだという。
私の家はここだから、ここだよと答えた。
それを聞くと私は、入れてという。
私が私の家に入るのになぜ許可がいるのかはわからなかったが、そこにいたのは私なので、どうぞと招き入れることにした。
私は家の中に入りドアを閉めたので、必然的に私は家の外から出されることになった。
Note5
目が覚めるとそこは病院で、私はベッドに寝かされていた。
周りの家族が言うには私は昏睡状体に陥っていたらしい。なぜ?と思うが理由はわからない。部屋の中で倒れていたそうで、友人が発見したらしい。
一体何が起きていたというのだろう。ほとんど覚えていないのだが、ただ一つ。
家に帰りたかったことだけは覚えている。
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