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第1章 8話​

 

 この街で何度、同じような日常が繰り返されてきたのだろう。まあ、それはどこでも一緒か。アタシはこの変わらない日常がつまらなくて、探し物をするという口実で旅に出たりしていたのだから。でも、なぜ今まで、誰も疑問に思わなかったのか。

 

 この街は、本当はもうダメだった。でもそれは、この街にいる限り分からないだろう。そして、それについて、口に出して話せる人間は少ないだろう。知っていても誰も話さない。誰にも、この街の人の日常を壊す権利は無いからだ。人が減っても、化け物が現れても、皆それが当たり前であるかのように振る舞う。誰もそれに疑問をもたない。言い伝えだから、と。なぜこんなことが起こるのか、なぜここなのか、などとは誰も思わない。

 

 アタシは、この街を出て、他の国や地域を見てきたからわかる。ここは他の街とは違う。なにか禍々しいような雰囲気さえある。この街へ足を踏み入れたら、もう誰も街から出て暮らすことは出来ないのだろう。そしてこの街で、人は、なにも感じず、なにも疑問に思わず、ずっと同じような日常を繰り返していくのだろう。

 

 私は旅に出ることもある。だから知っているのだ。前に、夜この街へ帰ってきた時に見てしまった。たまたま街に着いたとき、もう夜だったというだけの偶然だった。その時、外から街の姿を見て初めて分かった。そこにあったのは、この街の本当の姿だった。街の建物は黒い影そのもので、街は灰色の霧のようなものに包まれている。街が化け物に飲み込まれているのか……いや、あれはあの化け物その物だった。そうやって、本当のことに気が付いたところで何も出来ない。大きな声でこれを叫んでも、この街の人は誰も気にもとめはしないだろうし、私の話を誰も信じないだろう。

 

 ああ、きっとこれからも変わらないのだろう。この化け物の街で、アタシ達はただ、同じような日常を繰り返すことしか出来ない。

そう、この街に殺されて、死ぬまで。ずっと。

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