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懺悔

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悔やんでいますか?

いいえ、悔やんではいません。

あなたはいつ悪魔と契約したのですか。

いいえ、私の身に悪魔はおりません。

あなたは嘘をついていますね。

いいえ、私は嘘などついておりません。私は主に対して正しきことしか述べていません。私は、私は正気なのです。

私は、何も間違ってなどおりません。

 

 

 

 

この地域の風は乾燥している。

そのせいか冬は肌がかさついて、ぴりりとした痛みで皮膚が切れていることに気が付く。

この村ではしばしばあることだった。

そんな時は家においてあるレムの実をすりつぶした塗り薬に手を突っ込む。

少しひりつくが、効果があることは今までの歴史が証明している。冬場は入用だから切れることもよくあるが、たいていどの家にも置いているので、そういう時は隣人の家の扉をたたく。

小さな村だから助け合いの精神で、ないものは互いに補う。今日も母が作り忘れて切れた塗り薬をもらいに行くところだ。さっき切れた指先が傷む。胸の前で指先を手で包み、駆け足で向かう。

「マールさん、マールさん。こんにちは、レティです。おうちにいますか?居たらお返事してください」

こんこんとドアをノックする。こん、こん、こん。すぐに扉の向こうから、はぁいと間延びした声が届く。

これもいつもの光景でよくあること。うっかり屋さんな母ともども、少女はお隣さんのお世話になっている。マールさんは優しいおばあさんで、少女のことを孫のようにかわいがってくれた。少女もそんな優しい彼女が好きで、よく遊んでもらっている。

しばらくするとぎいぎい音を立てて古びたドアが開いた。

半分ぐらい開かれた扉の向こうから、優し気な顔つきをした老婆が顔をのぞかせている。

「こんにちは、レティちゃん。今日はどんなご用事かしら?今ねえ、申し訳ないのだけれどお客さんが来ていてねえ。あまり長くお話しできないのよ、ごめんなさいねえ」

 

「えっとね、レムの塗り薬がほしくて。お客さんが来ているのですか?ならレティはすぐに帰りますね」

 

「ああ、塗り薬かい?なら今持ってくるよ。ちょっと待ってなさいねえ」

 

「ありがとう!マールさん!」

老婆は丸まった背中を左右に揺らしながら、部屋の奥へと消えていった。

その姿を目で追いながら、少女は半分の扉越しに部屋をのぞいた。

 

なんてことはない、よく見知った部屋だ。その中心におかれたテーブルの前に、知らない人間が座っている。

 

ここら辺ではあまり見かけない格好をした大人だった。全身を黒い礼服のようなものに包んで、同じ色のケープのようなものを身に着けている。

 

家の中だというのに真っ白な帽子を深くかぶっていて、表情は読み取れない。

その人物はせわしなく動くマールさんに近づいていった。

「何用でしたか?お邪魔してしまいましたかね」

 

ああ、いえいえ。うちの隣に住んでいる女子でねえ。塗り薬が切れたからうちにもらいに来たんだよ」

 

「おや?この地域にまだ子供がいたんですね。これはちょうどいい。彼と会わせてやってもいいですかね」

「そうねえ、ちょうど年も近いでしょうし。・・・レティちゃん!こっちにおいで」

何やら二人で話し込んでいたようだが、唐突に少女の名前が呼ばれる。

彼らに近づいて、初めて少女はそこにいたのが2人でないことに気づいた。

知らない大人の影に隠れて、少女と同い年くらいの少年が少女を見据えていたのだ。

「レティちゃん、この子はねえ、神父さんの下でお勉強しているカルム君っていうの。おんなじくらいの歳でしょ?少しお話してみない?」

少年は探るような目つきでこちらを見ている。神父と紹介された大人の服の裾を握り、何も口にせずこちらを、じっと。

「・・・ちょっと人見知りをする子でして。ほら、カルム。挨拶をしなさい」

神父の大人に背中をせっつかれると、少年はしぶしぶといった様子で口を開いた。

「・・・カルム。君は?」

「・・・レティです。あの、この村で子供は私しかいなくて、だからとても不思議です。おんなじくらいの子は初めてみました」

少女の言葉に驚いたのか、少年は目を瞬かせている。

仕立てのいいシャツを着ているし、街の方から来たのだろう。辺境の村がここまで田舎だとは、思っていなかったのかもしれない。

「こんな不愛想な子ですが、できれば仲良くしてやってください。私たち、今日からこの村の教会に勤めるんです。レティさん、よければ村の案内をカルムにしてやってくださいますか?」

この人は教会の神父さんだったようだ。どうりで、見慣れない服を着ていると思った。

街の神父さんはこんな格好なんだろう。村にある教会にいるおじいさんは見慣れた麻の服を着ていたから、この大人が神父さんだとはわからなかった。

「いいですよ!カルム君、いこう」

ドアの近くまで走ってから後ろを振り向く。振り向いた先には、少しおぼつかない様子で後ろについてきている少年の姿があった。

少女は少年がついてきていることを確かめると、ドアを開いて外へ駆け出した。

それに遅れないように少年も駆け出す。その様子を、後ろで大人たちが見つめていた。

「あら、そういえば」

「おや?どうしましたか、マールさん」

「レティちゃんに塗り薬を渡し忘れていたわ」

それからしばらくたった後、切れた指先の痛みに気づいた少女が戻ってきたことは、言うまでもないだろう。

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